今回の話題は先手と後手の勝率差です。
もしかするとご存知ない方がいるかもしれないので最初に申し上げますと、チェス界では先手の方が勝率がいいのではないか?という説が、19世紀つまり1800年代の特に後半から言われ始めて現在でも論争があります。
要するに平等じゃない説があります。
その有利不利は本当なのか?もし本当ならどのくらい?そもそもその有利が発動する条件ある?といった部分を掘り下げようと思います。
ではよろしくお願いします。
先手と後手でなぜ優劣はつき得るのか
チェスは運に左右されない二人零和有限確定完全情報ゲームに相当するため、最善手を選択し続けることが可能であれば、1.先手必勝、2.後手必勝、3.引き分けのいずれかの結果が初手から確定しているはずです。
しかし、現代科学ではチェスをそこまで計算できないため2020年10月現在ではどの結果が出るかは不明となっています。
でもですよ?感覚的に先手持った方がよく勝てる気がする。とか、後手持った方がやりやすい感じ。といった感想は人それぞれあるわけです。
その感覚の中でも多数派大勢の人のものと、実際の勝ち負けの結果の割合がほぼほぼ一致して、たぶん先手って後手より有利だな。と言われ始めました。
ちなみにこの先手有利説は早指し戦やアマチュアレベル(特にレーティング2000未満)ではほとんど当てはまりません。
データから見る先手勝率
First-move advantage in chess – Wikipedia によりますと、いつの時代も結果を集計してみると先手勝率52~56%の間、つまり後手勝率は44~48%の間をうろついているとのことです。
White consistently wins slightly more often than Black, usually scoring between 52 and 56 percent.
https://en.wikipedia.org/wiki/First-move_advantage_in_chess
これはコンピュータでも人間でも同じような結果になると聞きますが、「あれ?チェスって引き分けもあるんじゃ?」と思った人向けに解説すると、チェスではほとんどの場合引き分けは0.5勝0.5敗が同時に入るスコアとして結果に残ります。
つまり引き分け込みの数字が52~56%というわけですね。
目安としてどのくらい引き分けがあるかと言いますと、チェスの主要棋譜サイトChessgames.comの2015年データベースで先手37.5%、後手27.6%、引き分け34.9%で、引き分けを勝敗換算すると先手勝率54.95%(後手勝率45.05%)だそうです。
Chessgames.com database 2015 37.50% 34.90% 27.60% 54.95%
https://en.wikipedia.org/wiki/First-move_advantage_in_chess
ちなみにアマチュアレベルだと特に早指しなら先手49.5%、後手47.5%、引き分け3%とかだったはずです(数年前の大手ネットチェス対戦サイトchess.comでの数字)。
さて、仮にチェスは同じ手を指し続けることが可能であれば必ず一手差で勝てるであろうことが予想できるため、そんな勝敗データとかを見なくても何となく予想が付いていてた人も多いと思います。
より専門的な言い方をすると、最初は先手で主導権イニシアチブを取ることにより、強い選手ならそこから何らかの永続的な利益(駒得など)に変換することができるのではないかという予想ですね。
何でもかんでも先手有利というわけではない
ここからです。
先手がなんだか勝率がいいことは過去のデータを見るとどうやら事実らしいということですが、どういった条件下でその勝率の良さが発動するのかという部分も気になる方は多いと思います。
そうなんです。
既にレーティング2000未満のアマチュアプレイヤーにはほぼ無縁の心配とは言いましたが、どうやら先手の勝率の良さは無条件に訪れるわけではなく、発動条件や最も効率よく先手の優位性が生かせる対局者同士のレベル差というものがあるようです。
このサイト First Move Advantage in Chess – AN ANTIC DISPOSITION によりますと、2000年~2013年のレーティング2000以上の人の棋譜(コンピュータ棋譜は除外)で1手以下で決着がついたものを排除したデータベースを分析すると、興味深い結果が出たようです。
最近の棋譜データベース分析結果
まず、その上記データベースでは
1-0 (36.4%)
1/2-1/2 (35.5%)
0-1 (28.1%)
https://www.robweir.com/blog/2014/01/first-move-advantage-in-chess.html
先手の勝率が54.2%、後手勝率45.8%(内訳先手36.4%、後手28.1%、引き分け35.5%)。
大体さっきと同じような結果になりました。
ちなみに平均レーティングは
mean white Elo: 2312
mean black Elo: 2309
https://www.robweir.com/blog/2014/01/first-move-advantage-in-chess.html
先手が2312、後手が2309だそうです。
そして、レーティング差からくる期待される予想パフォーマンスと実際のパフォーマンスとの違いがあり、マイナス400~プラス400までの先手から見たレーティング差と平均スコアのグラフがあります。
Average score by ratings difference画像出典:https://www.robweir.com/blog/2014/01/first-move-advantage-in-chess.html
そして、それは明らかにその二つはズレています。
詳しく言うと予想スコアより先手の実際のスコアの結果の方がちょっと良い方向にズレてます。
そしてそのズレ方は均等ではありません。
先手の優位性がいかされる条件
そのグラフを見る限り、自分が格上の場合は先手を持ってもほとんどレーティング差から計算できる確率通りの結果になります。
注目すべき点は、自分が少し格下の場合に先手を持てば計算で割り出される勝率よりも明らかに良い結果が得られると読み取れる部分です。
グラフからはレーティングが100~200くらい自分が格下で、今から格上に挑むんだ~!というときに先手を持つことは大きな味方になりえるということになりそうです。
まとめ
- チェスは強くなれば先手勝率と引き分け率が上がりやすくなる。
- 強い人の先手勝率は大体54%前後(後手勝率は46%前後)。
- ちょっとだけ自分より強い人を相手にしている場合、先手を持つと勝率が上がりやすい。
- ただしおおむねレーティング2000以下のプレイヤーは気にする必要なし。
ということでした。先手後手で優劣が出るのは統計的には真実だったようです。また次回。