今日はチェスにおけるプロとも呼べる、世界チャンピオンにも近しい人たちがやらかしてしまったうっかり失敗を紹介します。
ではよろしくお願いします。
ミハイル・チゴリンさんの場合(vsシュタイニッツさん)
まずは1892年第4回世界選手権大23局、白挑戦者ミハイル・チゴリン選手VS黒チャンピオン、ヴィルヘルム・シュタイニッツ選手です。
31…Rcd2 の場面。
ここから先手白の番ですが、2020年10月時点で最新チェスコンピュータエンジンのストックフィッシュ11は+2.1の評価。
つまり先手がポーン2個分以上の駒得に相当する優勢と判断しました。
ここで黒はセブンスランク(セカンドランク)を2つのルークで占領しているものの白はナイト1つ得、黒のビショップは動きが制限されクイーンサイドのポーンも危機に瀕しています。
このまま 32.Rxb7 とすればピースアップの濃度が濃くなって白が勝つ可能性はさらにアップすることでしょう。
プロレベルなら投了する可能性がある優劣差です。
しかし、今回は悪手ブランダー集です。
次にどんな手が飛び出したかというと 32.Bb4?? 。
どういうことかというと、今までキングの頭のh2ポーンを守っていたビショップを動かしてしまいました。
つまり本譜ではこの後 32…Rxh2+ で、その直後投了となりました。投了図以下は 32.Kg1 Rdg2# までのチェックメイトです。
棋譜サイトでの本譜:Mikhail Chigorin vs Wilhelm Steinitz
チグラン・ペトロシアンさんの場合(vsブロンシュテインさん)
次は1956年世界選手権挑戦者決定トーナメント、白チグラン・ペトロシアン選手VS黒ダヴィット・ブロンシュテイン選手の対局。
35…Nf5 の場面。
上の図で、白の手番です。
チェスコンピュータエンジンのストックフィッシュ11評価は+2.6、つまり先手白がポーン2.6個分の駒得に相当する優勢と判断しています。
詳しく見てみると、駒の損得こそありませんが黒のビショップが閉じ込められ、それによって片方のルークも閉じ込められる形になってしまってるのに対し、白は中央で2つのナイトが威張っている状態で、ルークもよく働いているのでポジションの利が圧倒的に白にあります。
とりあえずクイーンにナイトの効きが当たっているのでそれを避けた後、難しいですがおそらくじわりじわりと抑え込むようにスペースを生かして指していけば勝つ可能性はさらにアップすると思われます。
さてそんな中、次にどんな手が飛び出したかというと 36.Ng5?? 。
どういうことか。クイーンをタダで捨ててしまいました。
つまり本譜ではこの後 36…Nxd6 となります。このあと何かあるのかと思いきや即座に投了となりました。
棋譜サイトでの本譜:Tigran Vartanovich Petrosian vs David Bronstein
失策をした人の紹介(おまけ)
ミハイル・チゴリンさん
ロシア帝国出身。ロマンチック・チェスと呼ばれるスタイルの最後の強者と言われる、そしてクリエイティブチェスの天才とも言われているそうです。世界選手権には1889年と1892年の2度挑戦するがどちらも世界チャンピオンのシュタイニッツに敗れる。
チグラン・ペトロシアンさん
ソビエト連邦出身。第12代チェス世界チャンピオン。在位は1963年~1969年。自分からはあまり攻めない地味な棋風で知られ、強固な個性と不撓の意志を持っていたことから「くろがねのペトロシアン」と呼ばれたそうです。
ではまた次回。