今日のお話はチェスのブランダー(悪手)と制限時間とのかかわりです。
もしかすると将棋や囲碁などでも同じことが言えるかもしれません。
残り時間と悪手率についてのツイート
完全無料のチェス対戦サイトでは最大手のlichess.orgというところがあるのですが、その公式ツイッターアカウントでこういうツイートがありました。
つまりどういうことかと意訳すると、「残りの持ち時間が短いと悪手率が上がるのは当然のことですが、持ち時間が短いことを知らせる警告音によって悪手率が上がる可能性はあるのか。持ち時間べつにグラフ化すると警告音の時点でどれも目立った増加の変化があります」
というような感じの意味の言葉になると思います(たぶん)。
さて、記事全文がリンクにありましたので読んでみました。
記事全文(https://github.com/Antiochian/chess-blunders/blob/main/README.md)
以下引用と感想を書きたいと思います。
レベル別と持ち時間別の悪手発生率グラフ
さて、本文中のグラフを見てみましょう。上に上がれば上がるほど悪手発生率が高く、右に行けば右に行くほど時間に余裕がある段階です。
https://github.com/Antiochian/chess-blunders/blob/main/README.md
グラフから言えそうなこと
一つ目、上のグラフの持ち時間3分のゲームで言うところの20秒の地点で目立つグラフの山がある。
5分ゲームでは40秒の地点、10分ゲームでは60秒の地点でも山があります。
これは切迫していますよという警告ブザー(「ぴろん」という感じの音)が鳴るのと持ち時間の時計表示を赤くするエフェクトがかかる時間と一致します。
ちなみにどの制限時間でも、20秒地点で持ち時間が100分の1秒までの表示に変わり、その瞬間また効果音(「しゃかしゃか」という感じの音)がなります。
その20秒の地点でも5分10分のゲームは悪手率の跳ね上がりが見られますね。
二つ目、序盤も序盤でのミスは中盤戦終盤戦に比べると少ない。
三つ目、制限時間半分の地点でどのグラフも谷になっているへこみがある。
これはlichess.org独自のシステムのバーサークを使った結果だと思われます。
バーサークとは大会ゲームで勝利時のポイントを1点増やす代わりに持ち時間を半分にした上で一手あたり加算される時間を放棄するシステムのことで、これを使った人は持ち時間が半分の地点でミスの少ない序盤を迎えます。
このグラフでは一手あたりの加算時間(インクリメント)がない設定の持ち時間なので単に持ち時間が半分になるだけです。
四つ目、弱いプレイヤー(ここではレーティング1000以下のプレイヤー)はブレが大きい。
悪い手を指すことの方が多いですが、偶然得意な盤面になったり偶然勉強したことのあるポジションになったり、はたまた本当に偶然良い手が見えたり、良い手を指せることもまれにあるということでしょうね。
五つ目、強いプレイヤー(ここではレーティング2000以上のプレイヤー)以外は悪手率が横ばいになる瞬間がある。
例えばレーティング1000~2000のプレイヤーは10分ゲームだと大体残り400秒のあたりから警告音の鳴る60秒のあたり、もっと言えば20秒警告までバーサークを使ったと思われるへこみを除けば、ほぼ横ばいです。
逆に言えばレーティング2000以上のプレイヤーは左肩上がりと言いますか、時間が無くなればなくなるほど悪手率が上がります。
時間減少の影響を受けやすいのは上級者?初級者?
先ほどのグラフから言えそうなことの五つ目から思われる仮説があります。
横ばいになる部分がある、レベルがレーティング2000未満プレイヤーは『いくら考えても良い手が分からない』という瞬間が存在するのではないかということです。
このグラフでの『悪手』とは何かについては、コンピュータ解析結果、選択した手によりポーン2つ分以上の損失に値する評価値が悪い方に変化してかつ形勢が逆転した場合に悪手と定義されているそうです。
つまり、これは明確に良い手がありますよと言う状態でそれが見つけられなかった場合に悪手とカウントされてしまうわけですが、上級者と思われる2000以上プレイヤーは時間さえあれば見つけられる確率が高い人々だと思われます。
何が言いたいかというと、中級者以下のプレイヤーはある程度考えたらそれ以上考えても事態は好転しづらく、逆に上級者のプレイヤーほど持ち時間が多いと正着が見つけやすいと思われます。
残り時間減少により弱体化しやすいのは上級者と言えそうです。
しかしこれは元々正着率が高いがゆえに悪手を指す伸びしろ(といってもいいものか)が大きいだけとも言えるかもしれません。
持ち時間の調整でハンデ戦は可能か
引用元のグラフを見る限り、1000以下の初級者プレイヤーはブレが大きいものの持ち時間がじゅうぶんなら、大体悪手率33%前後に収束しているように見えます。
次に1000~2000の中級者プレイヤーはじゅうぶん持ち時間があれば23%くらいに収束しているようです。
2000以上の上級者は収束しないもののめちゃくちゃ切迫すると23%くらいの悪手率になりそうです。
ということは、めっちゃ時間のある中級者vs時間切迫してる上級者なら、いい勝負ができそうです。
引用元の記事でも上級者が一手あたり3秒プラスアルファくらいの時間考えたら、時間無制限の中級者の実力と同じくらいかもしれないと言及しています。
From my data, I hypothesize that a suitable handicap to enable a 1000-2000 ELO player to compete with a 2000+ ELO player fairly would be the following time control:
2k+ player: 3 seconds +3s increment
1-2k player: unlimited timeThis would mean that the expert player would always have about 3 seconds on the clock, which corresponds to the region of the graph where the expert’s error rate approaches the average plateaued error of the intermediate player. Of course, this logic is riddled with flawed assumptions, but it is just a bit of fun.
https://github.com/Antiochian/chess-blunders/blob/main/README.md
ただ、時間無制限というのは私個人としては色んなリスクが大きいといいますか、知り合い同士での対戦ならいいとは思いますが、知らない人同士の対戦だとうまくいかないかもしれないと思う節があります。
負けそうになったらほったらかしにするとか、よくある話ですしね。
そして、これはlichessのシステム上、可能なハンデを考えてみたいと思ったので、私がもう少しアレンジしてみます。
私の考えた良い勝負ができる持ち時間ハンデ
- 切れ負けであれば、上級者持ち時間4分vs中級者持ち時間40分。
- インクリメント(一手あたりの加算時間)ありでは、上級者2分+一手3秒加算vs中級者38分+一手3秒加算。
- lichess独自のシステムのバーサークを使用する前提であれば、持ち時間8分+一手50秒加算のトーナメント(大会)ゲームで上級者がバーサークシステムを中級者相手に使用する。
これくらいでいい勝負ができるのではないでしょうか?
lichessでは通常対戦なら、敵の持ち時間を15秒加算するボタンが存在するので、1の切れ負けであればまず4分対戦を作って上級者側が中級者の持ち時間加算ボタンを開始時にでも144回押せば可能な設定です。
2のインクリメント戦では、2分+一手加算3秒の対戦を作って上級者側が中級者に対して144回持ち時間加算ボタンを押せばOK。
超面倒ですね。ただし3のバーサーク使用が前提のであれば、持ち時間8分+一手加算50秒のトーナメントゲームを作りさえすれば、ゲーム開始時にバーサークボタンを1回押すだけでいい勝負ができるはずです。
これは1ゲームあたりの平均手数が40手前後と仮定して、一手あたり上級者は約5秒の考慮時間、中級者は約1分(60秒)の考慮時間で同じような悪手率ではないかという考えのもと計算して大体の時間に変換したのがこれです。
しかし、敵が考える時間も自分は考えられるということを考慮すると私が思うより少し上級者側が勝つ可能性が高いかもしれないです。
まとめ
- 時間切迫により悪手率が高くなるのは元々の悪手率が低い上級者。
- 時間切迫してますよというアラームが存在する地点で悪手率の増加が跳ね上がる。
- 中級者以下は、これ以上いくら考えても悪手率が下がらないという時間がある。
- 初級者ほど持ち時間が多くても悪手発生や好手発見のブレが大きい。
- 中級者と上級者であれば持ち時間にすごい差をつけるといい勝負ができやすい。
という感じでした。
面白いですね。また次回。